PERSONA
如月モネ(19才)、裏兵庫県在住。
親元を離れ、一人暮らしを始めたはいいが、思い描いていたキャンパスライフとは程遠い。
適当に選んだサークルからはすぐにカットアウト、大学に友人と呼べる存在は一人もいない。
自分が臆病なくせに怠惰な性格だったことを改めて思い知ると、堰を切ったようにすぐ髪を染めた。
強がりと諦めを込めたブルー。
輝かしい高校生活こそが、今後も含めた自分の人生の全盛期だと思えてならない彼女。
今は、物語のエピローグを生きているような感覚で・・・これから先のことなんて、もっと、考えられない。
こんな私にも、名前も知らない同級生たちと並んで、
ありもしない志望動機を平然と語る日が、やって来るだろうか?
そんな中、ずっと追いかけているバンド『NINE』のチケット代を稼ぐために始めた飲食店のアルバイトで、
同い年の大人 = 見習い料理人に出会い、少しずつ少しずつ惹かれていく。
一方的な想いが暴走し、交際はおろか告白さえしていない彼に対し、
意味も効果もないそっけない態度を取ってみたりもした。
ある日、彼と付き合っている夢を見たモネ。
それは、その日に公開された『NINE』の失恋ソングのミュージックビデオの世界と瓜二つだった。
そして、バッドエンド。実際には、社会の端っこで駄々を捏ねているだけの大学生が、
いい年して、片想いをこじらせているだけだ。
二年前の春、内見に訪れた時、窓からの眺めが気に入り、便利とは言えない立地にあるこの部屋を選んだ。
今となっては世界と私を断絶するかのようにそびえ建つ集合住宅の無数のベランダには、色とりどりの洗濯物がはためいていた。
街全体が一つの大きな生命体みたいで、新天地での始まりに当時の私の心は躍った。
前を走る一車線の道路に降り立ち、振り返って見上げたその窓。
不意に落ちた記憶のエアポケットで、失くしたことさえ忘れていた気持ちを見付けた。
モネは、今から向かう行き先を変える。
それさえ、またすぐ日常に溶けてしまう束の間の逃避行かも知れない。
それでも、この瞬間だけは、確かに、彼女だけのものだ。
そんな仮想少女「如月モネ」の「逃避行」を、十五少女が代弁する。